妊娠中の歯科治療について
1. 受診時期について
基本的に歯科治療を受けてはいけないという時期はありません。
つわりや早産、流産などのリスクを考慮しますと、比較的症状も少なく安定期とされる妊娠中期(5ヶ月から7ヶ月)であれば、通常の歯科治療は問題ないでしょう。
胎児に影響を及ぼす可能性がある初期や、母体に負担がかかる後期は、緊急を要しない限り口の中の衛生指導にとどめます。
2. 受診に際して
受付にて母子手帳を提示して下さい。
産婦人科医から注意を受けていることは必ず担当歯科医師に伝えてください。
楽な姿勢で治療を受け、体調・気分が悪くなった時はすぐお伝えください。
3. 治療内容について
通常の歯科処置、たとえば 歯石除去、虫歯治療、簡単な外科処置は行うことができますが、緊急性が無く、炎症を伴わない外科処置はやはり避けるべきです。
ただし、出産までに放置すると、さらなる強い炎症をきたすと思われる病巣・歯の処置は胎児・妊婦の方の状態を考慮した上で行うこともあります。
4. レントゲン撮影について
歯科撮影は、性腺・子宮から離れており、胎児への放射線の影響はほとんどありません。
撮影の際は必ず防護エプロンを使用します。
防護エプロンの使用でX線を1/100程度に減弱させるため、被曝量は限りなくゼロに近くなります。
5. 薬について
抗生物質や鎮痛剤を使用する際には注意が必要です。
抗生物質の中には胎児に悪影響を及ぼす薬があり、なるべくなら妊娠8週以内では使用しない方がよいでしょう。
薬剤アレルギーがなければ、ペニシリン系やセフェム系などの抗生物質が比較的安全とされています。
抗生物質の使用は、薬の必要性と安全性を計りにかけ、必要性が明らかに重い場合の使用になります。
鎮痛薬については母体と胎児への影響を考えると、出来れば飲まない方がよいと思われますが、痛みによる精神ストレスがある場合は使用する方がいい時もあります。
その際には、比較的安全なものを選び1日1~2回程度とします。
いずれの薬剤も外科処置と同様、やむを得ない場合のみ使用します。
その場合は、妊婦さんが通っている産婦人科の先生に確認してから使うようにすることがほとんどです。
適切な使用時期、使用量、使用期間を十分考慮し、妊娠中や授乳中でも安全に使用できる抗生物質、炎症を抑える消炎鎮痛剤を選びます。
妊娠中の投与に関する安全性は確立されていませんので、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した時に、最小限の量を投与することになります。
6. 麻酔について
基本的に局所麻酔という患部に限局して効かす麻酔ですので、母体や胎児には影響ありません。
むしろ痛みを我慢することによるストレスのほうが問題になることがあります。
7. 抜歯について
出産後まで延期が可能であれば応急的な処置にとどめておきますが、どうしても必要な場合は安定期を選んで処置をおこないます。
妊娠中の口の中について
妊娠前に歯科治療を終えたからといって安心は出来ません。
妊娠中はつわりやホルモンのバランスの関係から次のような歯の病気にかかりやすいので注意が必要です。
1. 妊娠性歯肉炎
妊娠初期に始まり出産後によくなることが多い。
原因は、ホルモンの関与またはつわりによって口の中が不潔になるという説があり、はっきりわかっていません。
2. 虫歯
つわりにより口の中の清掃状態が悪化すること また 嘔吐による胃酸により歯の表面が溶かされ祖面になり汚れが付着しやすくなることによるもの。
3. 妊娠性エプーリス
妊娠期間中にホルモンの影響により歯ぐきの一部が増殖してこぶのようなものを作ることがあります。
上の前歯や下の奥歯に出来やすいのですが良性なので心配はありません。
4. その他
妊娠中はホルモンバランスの影響などにより、口の中にさまざまな変化が起こります。
鏡などでよく注意をして口の中を清潔にしてください。
上記の疾患はいずれもお口の中を清潔に清掃することにより予防できるものです。
妊娠をしたらまず産婦人科にかかることは当然ですが、歯医者にも行って検診や歯磨きなどの指導を受け、妊娠中の口の中の管理をしてもらいましょう。