「歯っとする話」をお届けします。
「健康寿命の鍵は、口の健康!~歯周病と全身の密接な関係~」をテーマに、「第18回口腔(こうくう)保健シンポジウム」が2012年7月7日、東京都渋谷区の津田ホールで開かれた。
1994年に東京で開かれた「世界口腔保健学術大会」を記念し、口腔保健に関する様々な話題を取り上げて市民に理解を深めてもらう恒例の企画。
歯を大切にすることがもたらす効能などについて、専門家が分かりやすく説明し、訪れた人たちは熱心に聞き入った。
主催 日本歯科医師会
不健康な期間
口腔は、全身を健康に保つためにとても重要です。
特に、健康寿命と口腔には密接な関係があります。
健康寿命とは、日常で介護を必要とせずに自立した生活のできる期間を指します。
厚生労働省は今年、初めてその数値を表しました。
2010年の平均は男性70.42歳、女性73.62歳でした。
一方、同じ2010年の平均寿命は男性79.55歳、女性86.30歳。
両者の間に男性約9年、女性約13年のギャップがある。
これは、介護などを必要とする不健康な期間にあたります。
厚労省は、運動や食習慣などを改善することで、健康寿命を1.6年以上延ぱすことを提案していますが、高齢になるとどうしても、認知症や寝たきりといった問題が生まれます。
この問題に、口腔、つまり、口や歯の健康が深く問わっているのです。
また、脳卒中や心臓病、糖尿病などの発症と悪化にも、口腔が深く関わっていることが分かっています。
自分の歯がたくさん残っていると、全身疾患のリスクが低く、長生きになる...というデータが、様々な国の研究者から報告されています。
がん、認知症も
具体的に説明しましょう。
歯がある人とない人を比べると、残りの寿命が全然違います。
歯を失った人のその後を観察すると、急に体に色々な症状が出たり、生活習慣病の発症率が高くなったりしているのです。
このほかにも最近、ショッキングなデータが出ています。
歯がなくなることは、がんの発症や死亡に関連があるというのです。
歯がないことは、特に消化器系のがんの発症と関連が高いと言われています。
今後、日本でますます大きな課題になると思われるのは認知症です。
認知症は現在、65歳以上のお年寄りの約5~10%の方がなっています。
私の研究所では、その数が今後どんどん増えると予測しています。
この認知症についても、歯との関係について色々な報告があります。
健康な歯が多いこと、むし歯があってもちゃんと治療していること、もしくは歯が残っていることは、認知機能と関係があるというのです。
具体的には、高知県に住む1000人近い高齢者の認知機能について、自分の歯の数との関係を調べました。
すると、男女ともきれいな相関が見られました。
つまり、自分の歯の数が多い人ほど、認知機能がしっかりしているのです。
この人たちの中には、高脂血症や糖尿病などにかかっている人もいますが、血糖値やコレステロールの値と、認知機能との間に相関関係は見られませんでした。
歯は、認知機能を予測する指標になることがわかります。
唾液分泌促して
高齢の方にとって、肺炎は深刻な疾患です。
日本人全体の死因に占める肺炎の割合は約10%ですが、そのうち96%までが65歳以上の高齢者です。
年を取ると、飲み込む機能が低下するため、誤嚥(ごえん)性肺炎が原因で亡くなる人が多いからです。
そうしたことから、口の中をきれいにする「口腔ケア」をすると、肺炎の予防になると言われています。
皆さんは通常、うがいや歯磨きをやっていると思いますが、「機能的口腔ケア」も加えるとよいでしょう。
これは、顔の表情をうまく作ったり、口の周りの筋肉を鍛えたり、舌の運動をしたり、唾液腺のマッサージで唾液の分泌をスムーズにしたりすることです。
こうしたことを日頃からやると、口腔機能の維持につながり、肺炎など様々な病気の予防になります。
歯の健康維持とともに、口腔の機能を維持すると、おいしく食べられます。
これは、健康寿命を延ばすことにつながるのです。
【出典】2012年7月31日 読売新聞より
健康に長生きしたいものですね!